L'ange Sauvage

僕は野生の天使、熱いガゼルの体を抱きしめる / 僕は待つ 神々の怒りを、あるいは悪魔の美しさを
僕の死にかけた世界を覆いつくしてほしいから  ――――― CYRIL COLLARD





ANA+OTTO  2000/01/18
Pola X  1999/10/24
ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ  1999/08/23
バッファロー '66  1999/07/09
ハイ・アート  1999/06/02
ポゼッション  1999/05/27
永遠と一日  1999/04/20
クッキー・フォーチュン  1999/03/06


ANA+OTTO
スペインのフリオ・メデム監督の4作目となる示唆に富んだ秀作である。スペイン映画はかつてより、ルイス・ブニュエル、ビクトル・エリセ、ペドロ・アルモドヴァル、ヴィガス・ルナら、優れた監督を輩出し、芸術性の高さという点では、最も注目されている国と言っても過言ではない。

運命の赤い糸を主題にした本作でも、幼なじみの2人の恋を追って、その恋の熱い迸りが画面から溢れ出さんばかり、と言っても、この監督は、プロットを北極圏にまで追いやり、青を基調にした鮮明な映像の中に白夜を取り込み、その恋の熱さを敢えて抑え込もうとしているかのようである。
良く練られた骨格のしっかりしたストーリーは、時にハーモニー、また、不協和音も生み出し、不思議な余韻を残す。何が本当に起こった事なのか、観客の想像力も試されているようだ。
この映画は、愛し合っている恋人達に、是非観てもらいたいものだ。自分達の恋が、果たして運命的なものなのか、それともどうでもいいものなのか、良く考えて欲しいから…。
ハリウッド製の安っぽいお手軽な恋愛映画にはない質の高さがここにはある。
Date: 2000/01/18


Pola X
22歳で「ボーイ・ミーツ・ガール」、25歳で「汚れた血」を撮り、ゴダールの再来といわれ、天才の名を欲しいままにしたレオス・カラックスの「ポンヌフの恋人」以来8年ぶりとなる新作「ポーラX」は、今世紀の最後を飾るのにふさわしい名作(勿論、異端の怪作)となりました。

彼も39歳に近くなり、少しは丸くなったかと思いきや、その過激さは増すばかり。いつまでたっても、中身は反抗期丸出しの繊細な悪ガキのまま。今回はハーマン・メルヴィル原作の「ピエール」を下敷きに、どろどろに堕ちて行く恋愛を、狂気をふんだんに盛り込んだ衝撃的な映像で映画化。あぶない一線を遂に越えてあっちの世界に踏み込んでしまっています。

レオス・カラックス自ら、L=F・セリーヌの暗黒小説に耽溺しただけあって(僕も図書刊行会のセリーヌ全集は愛読させてもらいました)ブラックホールに向かってどこまでも堕ちて行く作風には、更に磨きが掛かり、不幸のどん底まで観客を引っ張って行きます。また、作中に出て来る前衛バンドも、ノイバウテンとディスヒートと掛け合わせたような音で過激さ十分、何から何まで、監督のどす黒い偏執的な嗜好が感じられます。(フランスの前衛ロックにも変なのは結構あります。)

フランス映画も彼さえいれば、かつての名誉も保てるというものです。
ただし、インタビュー嫌いで、たまに答えてもいい加減な応答ばかりで、フランスの知識人には全く受けが悪いようですが。

一般受けしそうもない過激なショットとショッキングなシーンの連続は、悪夢そのものですが、説明が省かれた曖昧で神経症的で暗い映像は、娯楽映画とは一線を画し、孤高の存在感に輝いています。こういった希有の感性に巡り合えるのは、人生でもそう多くある事ではありません。

主演に名優ジェラール・ドパルデューの息子であるギョーム・ドパルデューが(まだまだおやじと違ってひ弱な演技で、違う人選にしたら、もっとこの映画は重厚なものとなったと思います)、また相手役にはロシア人のカテリーナ・ゴルベワが表情の少ない熱演で応えています。また、母親役のカトリーヌ・ドヌーブもさりげなく骨格を支えています。
Date: 1999/10/24


ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ
最近、活況の英国映画界から、また新しい才能が登場した。
MTVやコマーシャルを製作していたガイ・リッチー監督の出世作。(第11回東京国際映画祭最優秀監督賞受賞)

明らかにタランティーノを意識している作風だが、そこは英国らしいユーモアと皮肉が充満し、良く練られた脚本は、入れ子構造のストーリーを、結末に向かって一気に開花させる。そのテンポは、ブリティッシュ・ビートによって更に加速される。

暴力が中心に描かれながらも、作品としては、明るいコメディーに仕立てられている。軽いノリでありながら、クール・ブリタニアと呼ばれる英国文化の新しさも象徴している。

英国の若者達は、現在空前の好景気にも拘わらず、それを享受出来る者と、アウトサイダーとして弾かれる者との対比が激しい。ドラッグユースも拡大し、一部の都市では治安の悪化も進んでいる。こんな国内情勢の中、麻薬取引にまつわる暴力の裏世界は、日常的な物になりつつあるとも言えよう。

蛇足ながら、この映画には、女性は全く登場しない。恋愛はないのである。
男だけの世界ながら、妙に女性にも受けが良い映画である。
Date: 1999/08/23


バッファロー '66
パルコのCMでお馴染みの、話題沸騰のヴィンセント・ギャロ監督・主演のバッファロー・'66を、ビールやワインが飲めると評判の新装の映画館、CINE・QUINTで見ました。そこまでやるなら、ワゴン・サービスでツマミも売って欲しいなあ。

さすが、1脚10何万のフランス製の椅子(立派なカップホルダー付き)だけあって、これなら、2時間なら楽ちん!!

ミュージシャンやモデル、写真家、など、多彩な才人・ヴィンセント・ギャロ演ずるビリーが刑務所を出た後、親についた小さな嘘が原因で、たまたま通りかかったレイラ(クリスティーナ・リッチ)を誘拐し、妻に仕立て、親に会わせる…。

筋は単純明解。ストーリーに絡む登場人物も少なく、派手なアクションシーンも皆無。
ハリウッドの大作とは対極の位置にありながら、ちっぽけな人間の生き様が、妙に心に引っかかる映画です。

レイラ役の、クリスティーナ・リッチのロリータ顔と、Eカップの胸が、文字通りストーリーを豊かにしてくれています。その他、父親の役でベン・ギャザラ、母親役でアンジェリカ・ヒューストン、ちょい役でミッキー・ロークやロザンナ・アークエット、ジャン・マイケル・ヴィンセント等の名優も顔をだしています。

両親と4人で久しぶりに食卓を囲むシーンは、リチャード・カーンのアングラビデオほど過激に、殺し合いにはならないものの、疎外感一杯の気まずさが爆発! 皮肉やユーモアが生真面目に描かれ、監督の人となりが、感性豊かに画面に焼き付いています。

ロックファンなら、笑死しそうになる、キング・クリムゾンのムーンチャイルドの使われ方!! イエスもここでは、全盛時さながらに蘇りました。さすが、ミュージシャンもやっているだけあって、センスが抜群ですね。

10代、20代の可愛いガールフレンドを連れて、このクレイジーでファンキーなラブストーリーを思いっきり楽しんで下さい。
その後のデートも、絶好調間違い無し!!

おまけも付いていて、今回のチケットの半券を持っていけば、次回の上映作が千円で見られます。
(今回は、赤いブーツと銀の靴のカップルは1人、千円で見られます)

次回作は、同じヴィンセント・ギャロ主演の最新作Go!Go!L.A.です。
こちらは、あのミカ・カウリスマキ監督ですので、三浦の何十倍もでっかい、聳え立つリーゼントが見られますよ!
Date: 1999/07/09


ハイ・アート
今回、御紹介する映画で、女流監督のリサ・チョロデンコはデビューしました。
彼女は、大学院でミロシュ・フォアマン監督(アマデウスetc.)に師事し、短編映画を経て、今作品が、長編では初作品です。
サンダンス映画祭で脚本賞、以後、カンヌを筆頭に各地の映画祭で高い評価を得ました。アリー・シーディーが全米批評家協会の女優賞を受賞。インデペンデント映画の典型的な発掘のされ方ですね。

すでに、この一作で、彼女はミロシュ・フォアマンさえも追い越してしまったと言えるほどの充実ぶりです。

アート業界の内実や、ニューヨーカーのドラッグに耽溺する生活とが、生々しく描かれる中、出世の糸口を掴もうとする野心家と、芸術へのこだわりから、商業写真界からドロップアウトしてしまった才能を対比し、微妙な心理描写に成功しています。
併せて、際どい所で、芸術性を持ち合わせているので、凡百のB級映画に堕す事なく、評価を得られたわけですね。

ちょっとストーリーに触れておきますと、ニューヨークの一流写真誌に勤める女性編集者のシドが、ひょんな事から、上の階に住む、元女流写真家のルーシーと知り合う。
このルーシー役を演じるのが「ブレックファースト・クラブ」などの青春映画でアイドルだったアリー・シーディー。(シガニー・ウィーバーに似ています)
ルーシーの写真を一眼見ただけで、シドはその才能に惚れ込む。編集長に彼女を売り込むが、すでに、彼女は以前より、作品には定評を受けていた人だった。ルーシーには、同居中のレズビアンの恋人がいたが、ルーシーはシドの美しさに魅せられてしまう…。

音選びのセンスも抜群、撮影の美しさと、心理描写の綾に、才能の片鱗を見せています。
次回作が楽しみな監督が、また1人誕生しました。
Date: 1999/06/02


ポゼッション
(1982年日本公開、仏・西独合作、123分)

僕の大好きなアンジェイ・ズラウスキー監督の作品です。
現在もソフィー・マルソーと同棲中で有名なこの監督は、1940年、ポーランド・ルブフ生まれ。(生まれた時には、ナチス、ソ連の占領下であった為、解放に至る4年間の幼少期が、彼の人生に大きな試練となったのではないかと思われます)1957年、パリ国立映画学院(イデック)入学。その後、アンジェイ・ワイダ監督の元で「サムソン」「二十歳の恋」「灰」などで助監督として参加。

初監督は1971年「夜の第三部」、その後1972年「悪魔」、1974年「大切なのは愛する事」、そして1976年には、6時間の大傑作「シルバーグローブ」を製作、しかし、当局の検閲によりフイルムはズタズタにされてしまいました。
(現在は、残ったフイルムから修復されて1987年に完成した、3時間バージョンの物を、ビデオで見る事が出来ます)そしてこれから御紹介の1980年の「ポゼッション」が誕生した訳です。
撮影は、ブルーノ・ニュイッテン(現在、イザベル・アジャーニの旦那)です。

このポゼッションは、1981年のカンヌ映画祭やセザール賞で、イザベル・アジャーニが最優秀女優賞を獲得、彼女の出演作の中でもその怪演は出色です。
夫の役はサム・ニール。最近は、ジュラシックパークでも元気な所を見せていました。
また、脇役に、ブリキの太鼓でオスカルの父親役で名演を見せた、ハインツ・ベネントも出演しています。

ストーリーは、見てのお楽しみ。サスペンス仕立てです。モラリストなら眉をひそめる過激な表現、性的妄想、暴力、そして戦慄が支配しています。
ルイス・ブニュエルのような、示唆や逡巡とは正反対の、正面から斬り込んでくるタイプの映画です。
内容が内容だけに、一部の興味のある方だけにお勧めいたします。
(御家族でお楽しみになるような物では御座いませんので、念の為)
Date: 1999/05/27


永遠と一日
待ちに待った、テオ・アンゲロプロスの新作「永遠と1日」(98年のカンヌ映画祭パルムドール大賞)が、公開されました。
アラン・タネールの「白い町で」の船乗りの役が素晴らしかった、ブルーノ・ガンツを主演に迎え、映像詩人アンゲロプロスの秀作が、また1つ登場。
前作「ユリシーズの瞳」で民族紛争を鋭く抉って、95年のカンヌ映画祭グランプリを受賞。あれから4年、再び、当地は戦火にまみれ、難民が、ヨーロッパ各国に溢れ出ています。
死期を悟った作家(詩人)の最後の1日を追ったこの作品では、ひまわりのように美しい妻(イザベル・ルノー)との追憶、愛犬との別れ等を挟みながら、悲しみを背負った難民の少年(本物!しかし、ちょっとインパクトに欠けるのが残念)との1日の触れ合いを通じて、現在のギリシャが抱える難問を、炙り出して行きます。(特に国境のシーンは、鮮烈!)

字幕翻訳に、池澤夏樹を起用し、監督の意図する所も、違和感なく伝わって来ます。
これまでの彼の作品には見られなかった明るい陽光や少年の笑顔など、変化に富んだ、陰影のある美しい映像詩は、音選びの慎重さと相俟って、豊かな情感を醸し出しています。
現在監督は63歳と言う事ですから、あと2〜3作は、名作を残してくれることでしょう。

「朝露に濡れた明けの明星が、輝かしい太陽の到来を告げて、晴れ渡った空を乱すものは霞も影も一つもない。
やさしい風が吹き渡り、見上げる顔を愛撫する。魂の奥へささやくように、人生は美しい。そう、人生は美しい」

(作中の詩人、ソロモスの詩)
Date: 1999/04/20


クッキー・フォーチュン
この映画については、このコーナーで取り上げるつもりはなかったのですが、3月6日の朝日新聞の夕刊で沢木耕太郎が書いていたので、私見を披露させていただく事にしました。

この映画には、アルトマンが前作「ショート・カッツ」で見せたほどの鋭い切れ味はないのですが、だからと言って、その独特の視点は、相変わらず皮肉や諧謔に満ち、南部ののんびりとした小さな町の住人達のとぼけた点描と共に、ほのぼのとした滋味に富んだ味わいを持っている事に違いはありません。

P・T・アンダースンが30歳と言うその若さを「マグノリア」で暴露しているのに対し、75歳にしてなお闊達なロバート・アルトマンは、手慣れた手法で抑え目に表現し、すべてにソツがない。(勿論、いつものように捻ってはいるものの、破綻もない)

エリック・ロメール同様、老いてなお、フレッシュな感性を維持しながら、新作を生み出しつづける事は驚異ではありますが、計算し尽くされながら、過不足のない表現を展開している事には、さすが職人技と言わねばなりません。更に、古臭さを感じさせないのもいいですね。

エアロスミスのスティーヴン・タイラーの愛娘であるリヴ・タイラーも稚拙な演技力でありながら、今時の蓮っ葉な娘を生き生きと演じ、ワン・ランク・アップに成功。周りを固める老獪な男優・女優陣もしっかりした演技で映画を締めています。

確かに、これがアルトマンの作と知っているからこその不満もあるのだろう。
名前も知らぬ新人の作であったら、一際注目を浴びていたに違いないというのが本音でしょうか。
Date: 1999/03/06


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